2012年7月15日日曜日

中国新聞 より 胆管がんについて


胆管がん問題 被害の掘り起こし急げ

まだ「氷山の一角」なのかもしれない。大阪市の印刷会社に端を発した胆管がんの問題が広がりを見せている。
大阪市に加え、東京都と宮城、石川、静岡各県の印刷会社で計17人の発症が判明した。このうち8人は亡くなっている。
厚生労働省は全国の同業561社を調査したが、全体の数からすればごく一部にすぎない。さらに多くの発症者が埋もれている可能性があろう。
対策が後手後手に回ったアスベスト(石綿)問題の二の舞いにしてはならない。一日も早い原因の究明とともに、被害の掘り起こしを急ぐ必要がある。
今年5月、大阪市内の校正印刷会社の従業員が相次いで胆管がんになっていたことが表面化した。1991年以降、12人がかかり、うち6人が死亡していた。多くの従業員が若くして同じ病気で亡くなるのは、異常な事態と言わざるを得ない。
頻繁に印刷機のローラーのインキを落とす、特殊な作業をしていた。発症の原因は特定されていないが、現時点では有機溶剤の化学物質2種類が疑われている。地下の作業場で換気が十分でなかったことが影響した可能性が高いという。
この会社の責任が問われるのはもちろんだが、他社の状況も心配になってくる。厚労省、業界団体がそれぞれ実施した調査で、約7割の印刷会社が局所排気装置を設置していないとする結果が出たからだ。
中国地方での発症例はまだ見つかっていない。まず、それぞれの会社はいま一度、職場の状況を確認してもらいたい。
発症者や遺族が求めているのが速やかな労災認定だ。「死亡から5年」という時効があるだけに柔軟な対応は欠かせない。
厚労省は6月下旬、胆管がん問題で時効を理由に労災申請を門前払いしないよう、全国の労働局に指示した。当然の措置といえよう。これを受け、大阪の会社の元従業員5人の遺族らが労災の申請を決めている。
厚労省は実際に労災給付するかどうかを時効成立を含めて慎重に判断するという。できるだけ広く認めるべきだろう。
今回の問題の背景には、化学物質に対する国の規制の甘さもあった、とする指摘もある。
胆管がんの原因の可能性があるのは、2種類の化学物質。うち「1、2ジクロロプロパン」は排気装置の設置などを義務付ける法規制の対象外だった。
化学物質をめぐっては、企業などが新たな種類を使用するたびに規制をかける、いたちごっこの状態が続いている。
厚労省はこれを機に、6万種類の化学物質の発がん性などをあらためて調べるという。胆管がんの原因究明に加え、使用の規制を強化する方針だ。
印刷会社で使うような化学物質は、多くの製造業で原料や洗浄剤として使用している。国は幅広い問題として、本腰を入れてもらいたい。
ただ発症者の掘り起こしは国だけでは限界がある。自治体の側も取り組む必要があろう。
胆管がん問題を明らかにしたのは元従業員らの相談を受けた産業医科大准教授の調査だった。医師や研究者、労働団体などの情報をネットワーク化し、職場や地域で健康被害が出た場合に把握しやすくする。そんな仕組みづくりも必要だろう。

0 件のコメント: